生田緑地自然環境保全管理会議市民部会
平成27年度 5月の里山倶楽部B


植生などの自然を観察しよう 飯室山北側地区


日時 2015/5/16(土) 10:00〜13:00 雨後曇
場所 生田緑地 飯室山北側地区
講師 藤間熈子
参加 工藤思由(中学3年)、日高信康
  (生田緑地の雑木林を育てる会)白澤光代
  (富士通)岩渕裕輝
  (かわさき自然調査団シダ植物班)田村成美
  (生田緑地整備事務所)清田陽介
  (生田緑地運営共同事業体)額谷悠夏
  (市民部会事務局)岩田臣生、岩田芳美      10人

平成27年度第2回里山倶楽部Bは飯室山北側地区の自然を植生調査を通して観察することを試みました。
講師は長年にわたって川崎市内の様々な地域で植生調査をされ、生田緑地においても、各所の植生調査を行っている藤間先生にお願いしました。
勿論、当該地区においても、10数年前に調査していることから、この間の変化について、データに基づくお話もしていただけました。

全国の里山保全についての議論における最大の課題はアンダーユースによる生物多様性の低下にあったと思います。
ところが、一昨年末に開催したシンポジウム「川崎の自然と生物多様性」において茅ヶ崎市の岸一弘氏からいただいた基調講演「里山の生物多様性は保全されているのか 〜神奈川の低地域を例に〜」 にあったように、過度の管理による生物多様性の低下という問題もあることを認識しなければならないと思います。
特に、この10年で、手軽に使える機械が普及してきたことにより、1人でできる下草刈りの面積は飛躍的に増大し、樹木の伐採も短時間で行うことが可能になりました。
機械を使って、短時間に、広い範囲を管理することができるようになったために、里山の生物多様性が低下するという事態が起こっていることが危惧されます。
今回は現状の植生管理に問題があると思われる飯室山北側地区2ヶ所について植生を調査し、植物社会学的視点から当該雑木林の自然について考えてみることにしました。

朝はまだ雨が残っていましたが、参加者が集まり、活動することになりました。


飯室山北側頂部斜面
飯室山の北側の頂部斜面は、北東〜東北東向きの急勾配の斜面です。
生田緑地植生管理区分A15-2で、生田緑地の雑木林を育てる会が植生管理を実施しています。
今回は、コンパスや傾斜計、メジャーなどを忘れてしまいましたので、後日の計測確認が必要です。
飯室山北側の頂部斜面には殆ど高木がありませんでしたので、斜面を見下ろして右側の高木(コナラ)と左側の高木(クヌギ)、山頂側のエノキで挟まれた範囲を調査対象としました。
雑木林の植生を調べる時は、草本層、低木層、亜高木層、高木層の4層に分けて調査します。 よく問題になるのが草本層とは何かということです。 植生調査の草本層というのは、木本も含めて、地上からの高さで判断します。
雑木林の階層は調査地の状況に応じて、階層の境となる高さを設定します。
ここでは、亜高木層とすべき樹木が1本もありませんでしたが、高木層 10m、低木層 3m、草本層 0.7mとしました。


隣接のヤブに近い所にヤマトシリアゲが数匹いました。


調査を終えて、結果を確認しました。
高木層はコナラ、クヌギ、エノキの3本のみでした。いずれも、被度1、群度1としました。

参考 被度 +:1%以下、1:1〜10%、2:10〜25%、3:25〜50%、4:50〜75%、5:75〜100%
   群度 1:単独で生える、2:小さな群をつくる、3:大きな群をつくる、
      4:パッチ状または切れ切れのマット状、5:大きなマット状で全体を覆う

亜高木層はありません。低木層はムラサキシキブ(被度1、群度1)のみでした。
草本層には30種が見られ、アズマネザサ(被度4、群度5)、ヌルデ(被度3、群度3)、アカメガシワ(被度1、群度2)、ヤマハゼ?(被度1、群度2)が比較的多く見られました。
里山として適切に保全されている雑木林から見ると、草本層の植物の種数が非常に少ないことがはっきりしました。


感想
面白かった。
種数が少なくなっているということについて、どのようにすればよいか考えたい。
木が少ないのは、これはこれでいいのかなと思ったが、やばい植物が増えて元に戻せなくなるということなら、森は森のままというのが大事なのだと思った。
種数が少ないといっても何もしていない所と比べれば、まだ多いと思う。
何故、ここだけ高木が無いのだろうかと思った。
(伐採してしまったのです。)
一見すると何も無いように見えたので30種というのは多いと思った。 知らない植物が20種もあったが、こういうものを増やしていけたらいいと思う。
ヌルデやヤマグワが繁茂しかけている状態で、何もしないと、これらが全体を覆うことになるのかなと思う。 最終的な目標をどこに置くのかを見定めて管理する必要がある。

(藤間)
気持ちがいいと思う雑木林では草本層に75種、多いところでは90種ぐらい見られる。 種の豊富性としては、どのくらいが目標になるのか。
アズマネザサが密生するヤブの中は種の豊富性は驚くほど低い。

谷頭凹地下部(木製デッキの上側)
次は、飯室山北側の木製デッキから上部の谷頭凹地について調査するのですが、デッキから見ると右側の方は明らかに草本層が貧弱であり、低木も亜高木もありません。 植生管理区分A15-3にこだわると観察会としては極めて面白くなさそうです。
そこで、園路に近いA15-1を調査対象地に加えて、見た目にも草が繁茂している場所、20m×25m程の範囲を対象に調査することにしました。
A15-1は指定管理者の管理として毎年12月頃に下草刈りをしています。 A15-3は雑木林を育てる会の管理として、3〜5年に1度の下草刈りを植生管理計画として決めましたが、現実には毎年下草刈りを実施していた地区です。

この辺りは、生田緑地の中でも少ない植物、ここでしか見られない植物などが記録されています。 それらがどうなっているかも、先生の関心事であったようです。
リョウブは残っていましたが、イチヤクソウは消えていました。その他はどうだったでしょうか。


地形的には表流水が集まる場所だと思われますが、リョウメンシダが見られたことは驚きでした。
シシウドも繁茂していました。
草本は地上部の枯れる冬期に刈られても問題ありませんが、木本は刈られてしまえば低木にもなることができません。

(藤間)
良好な雑木林の階層構造は高木層70〜80%、亜高木層が20〜30%、低木層が40〜50%ある状態で、日光が草本層に達する量のバランスがとれると思います。 ここは低木層が非常に少ないので、バランスが良くありません。 残したい実生に印づけなどをして刈らないようにすると良いと思います。 もう少し、低木層の種類と量が増えるとバランスが良くなると思います。

(藤間)
帰化率は0%でした。 二次林は上手く管理されると帰化率を0に近づけられます。 この点では、ここは100点です。

(藤間)
地域希少種や絶滅危惧種が残されています。

(藤間)
今から10数年前にここにあった低木層には、アオキ、シラカシ、ツルグミ、ヤブムラサキ、シロダモ、アオハダ、クマノミズキ、コバノガマズミ、ゴンズイ、ムクノキ、イヌザンショウ、エゴノキ、 イイギリ、ヤツデ、モチノキ、ヤマツツジ、ヤマコウバシ、リョウブがありました。
常緑樹は落葉樹が成長するまでは育てない方がよい。

感想
非常に勉強になりました。
こんなに近い場所なのに環境が違うので驚いた。
シダがかなりありました。
萌芽してきたものがあったので、そういうものを育てれば雑木林にできると思う。
普段、このように調べることが無かったが、場所によって、環境によって、植生が異なることが分かった。
ゴンズイやヤマコウバシが消えたのは残念です。

今回の調査結果は整理し、過去の植生調査とも比較し、改めて、話し合いの材料にしたいと思います。
2010年末に皆伐した飯室山南側の皆伐更新地区においては年に何回もアズマネザサ刈りを行ってきましたが、実生の樹木が育ち、数年後には、目標植生である若い雑木林と言える状態になるだろうと考えています。
勿論、このアズマネザサ刈りは意識的、選択的に実生を除伐することもありますが、基本的にアズマネザサのみを刈る活動です。
これに対して、今回調査対象とした飯室山北側地区では、管理する時期は選択しても、無差別の下草刈りであったことが、階層構造を有する雑木林ではない状態をつくってしまったものと考えられます。


皆伐更新地区の観察
日時 2015/5/16(土) 13:00〜13:40 曇一時小雨
場所 生田緑地 飯室山南 皆伐更新地区
参加 岩田臣生、岩田芳美、藤間子

里山倶楽部Bを現地(飯室山北側の木製デッキ)で解散した後、5年目の皆伐更新地区を藤間先生に見ていただくことにしました。
切り株からの萌芽が生き残っているのは、クヌギ1本、コナラ1本のみですが、実生から成長したコナラをはじめ20種ほどが低木として扱える状態に成長しています。
昼食も摂らずに疲れている中での観察でしたので、植生調査と言える内容ではありませんでしたが、雑木林になりつつある気配を感じていただきました。

イチモンジカメノコハムシがいました。

ムラサキシキブやアズマネザサの葉の上にスジベニコケガがいました。

帰ろうとした時に、茂みの葉陰にアカシジミを見つけました。
観察していると、よく見える所まで出てきてくれました。

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特定非営利活動法人かわさき自然調査団
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