野鳥の森周辺エリアの雑木林を観察し、生田緑地の自然について考えてみよう!
♪mission モニタリングしながらモニタリングを考えること
日時 2013/5/18(土) 10:00〜13:00 晴
場所 生田緑地 野鳥の森周辺地区
参加 清田陽助、小泉恵佑、園田明子、額谷悠香、林 美幸、平賀孝政、政野祐一、水田茂子
(市民部会事務局)岩田臣生、岩田芳美 10人
生田緑地植生管理協議会では、皆が勝手に植生管理を行ってしまうと生田緑地の自然は守れないという考えから合議による植生管理計画をつくるための活動を2006年から継続してきました。
この活動を主体的に推進してきたのが市民部会で、微地形や活動規模などを考えた管理区分毎の具体的な管理方法と管理主体を決めて、その活動の効果をモニタリングして、その結果を管理計画に反映させるという所謂、順応的管理を目指していました。
しかし、植生管理計画の決定はあくまで植生管理協議会が行うものであり、市民部会で勝手に決めていたわけではありません。
市民部会は関心のある市民が誰でも個人の資格で参加し、自由に意見を述べることができる場であり、実際、価値観の対立する人たちの激しい議論が行われる時もありました。
7年が経過して、市民部会が活動してきた地区においては植生管理計画が作成され、植生管理が行われ、植生管理計画の更新が行われています。
この3月に生田緑地ビジョンに基づいて生田緑地マネジメント会議が設立され、この中の自然環境保全管理会議(通称 自然会議)に生田緑地植生管理協議会の機能は継承されました。
また、今まで作ってきた植生管理計画は行政計画として位置付けられることになり、植生管理計画については行政側が積極的に推進しようという流れになってきました。
「取り返しのつく範囲で、やってみて、考える」という順応的管理において重要な要素はモニタリングです。
活動を始めた頃は、「モニタリング」=「植生調査」と思い込んでいたために、上手く進みませんでした。
そこで、当該管理区域に応じて、調査対象を特定したり、様々な視点から評価してみたりと、管理作業をしながらでも可能と思われるような方法を考案して実施してきました。
今回の市民部会(愛称 里山倶楽部)は、昨年から植生管理に着手している野鳥の森を中心に自然を観察するという方法でモニタリングを行いながら、同時にモニタリングの方法について考えることにしました。
野鳥の森をこうした活動の対象地に選んだのは、植生管理によって野鳥などの棲息環境が破壊され、この場所で野鳥に出会えなくなるのではないかと危惧する人たちの反対意見が強い地区なので
丁寧に植生管理を進めたいと考えたからです。
モニタリングには、こうした心配をしている人たちにも参加してもらって一緒に見て、心配していた事態が発生していないかどうかをモニタリングするという回にすることにしました。
勿論、年1回のモニタリングでは適切な評価は難しいのですが、参加者が情報を持ち寄って提供してもらえれば、モニタリングの満足度は高くなると思いました。
当日はビジターセンター2階の入口付近に集合して、活動の目的について説明してから活動を開始しました。
生田緑地全体の自然のモニタリングとしては、
環境省のモニタリングサイト1000里地調査の一般サイトとして生田緑地を登録し、鳥類、植物相、哺乳類、ホタル、水環境、人為的インパクトの6調査を調査団が実施していること、
鳥類については毎月定例で生田緑地調査を野鳥班が実施していること等を説明しました。
その上で、モニタリングする要素を探すことをお願いしました。
丁度、キショウブの開花時期にあたったことから、菖蒲池に沢山のキショウブが侵入していることが分かりました。
咲いている場所が分散していることから、人為的に植えられた可能性が非常に高いと思われます。
キショウブは、西アジア〜ヨーロッパ原産のアヤメ科の多年草で、明治時代に栽培されていたものが逸出して広がったものと考えられており、環境省は「要注意外来生物」として指定している侵略的外来生物です。
栽培管理を業者委託している菖蒲池に植え込むことは非常に問題だと思われます。
【モニタリング A01】 侵略的外来生物の侵入・繁茂を把握すること
菖蒲池南側斜面は 2008年11月30日の市民部会において、雑木林に再生することを目指して純林状態に密生していたアオキを除伐した斜面です。
この4年半の間、萌芽したアオキは芽かきを行っていましたが、毎年発芽するコナラは成長せず枯れています。
昨春の市民部会で斜面下に生えているスギを除伐して林内を明るくしてコナラ実生が育つようにして雑木林を目指すことで合意され、
多摩区道路公園センターがスギを除伐することになっていましたが、まだ伐採されていませんでした。
この日の話し合いでは、園路沿いのタマアジサイや夏になって園路に発芽してくることが期待されるトキホコリなどのために園路沿いは少し暗い状態にした方が良いのでスギは伐採しないこととして合議されました。
トキホコリは、環境省が絶滅危惧U類、神奈川県が絶滅危惧TB類、東京都区部では絶滅、その他の東京都では絶滅危惧TA類に指定しています。
神植誌2001によれば、神奈川県内では綾瀬市、鎌倉市、川崎市に記録があるだけです。
生田緑地では生育地が4ヶ所ありましたが、1ヶ所は人為的に環境を改変され、1ヶ所はチヂミザサなど他の植物が勢力を伸ばしており、今年は2ヶ所のみになりそうです。
ですから、ここはトキホコリの生育環境を保全することを優先することになりました。
タマアジサイは神奈川県内全域に普通に分布する植物ですが、在来の普通種が普通に見られることも大切です。
どこもかしこも明るくすればいいのではなく、少し暗い場所も必要です。
【モニタリング B01】 トキホコリ、タマアジサイが健在であること(樹陰が確保されていて少し暗い環境)
なお当該斜面にはシダが元気に生えていて、参加者からシダ調査をしたいという申出がありました。
この調査結果次第では、斜面を明るくして雑木林にするという当初合議した目標植生の変更もあっていいと思っています。
駐車場に接した急斜面の枯ササなど汚らしい状態になっている場所については、これも多摩区道路公園センターが綺麗にすると約束していた場所ですが何もしてくれていませんでした。
放置しても植物が何も生育しないような崖は特異な環境であるので、安全上問題が無ければ、見た目に悪印象を与える要素のみ取り除いて、後は放置する方法が考えられます。
【モニタリング C01】 崖の状態についての観察調査
野鳥の森の入口でガビチョウの声が聞かれ始めました。
ガビチョウは、環境省の特定外来生物に指定されている野鳥で、生田緑地では2006年頃から出会えるようになって、特に5月は多く出会う野鳥です。
野鳥班による今月の生田緑地野鳥調査では、ウグイスが16個体観察されたのに対してガビチョウが20個体観察されています。(野鳥班提供情報)
【モニタリング A02】 ガビチョウの観察個体数(外来生物の棲息状況)
ここにはヒマラヤシーダが数本あります。
今年は、その根本に落ちている実をヒガラやキクイタダキが食べていました。
普通は地面で採食する野鳥ではないのですが、ヒマラヤシーダの実は食べていました。
ヒガラ(シジュウカラ科)やキクイタダキ(キクイタダキ科)は、生田緑地でも時々、冬に見られます。
共に、多くはシジュウカラと一緒に混群をつくって行動しているところが観察されます。
今年は特に多かったようです。(参加者提供情報)
【モニタリング B02】 ヒマラヤシーダの実を採食するヒガラやキクイタダキ
昨年話し合いをして剪定したサザンカの並木です。蕾はできるだけ残して剪定しました。
花は咲いていました。(参加者提供情報)
剪定したことでの問題は起きていないということを確認しました。
ホトトギスが鳴きました。
今年は今朝から鳴き始めています。
園路付近のアオキの実生は昨年抜き取りました。
そのため、この日は余り目立ちませんでした。
園路の分岐点にある野鳥の案内看板について、カラーでないので分かり難いという人がいました。
野鳥の絵としては良く描かれているのですが、色がついていないと実物をイメージしにくいので、生田緑地内のほかの看板と同じようにカラーにしてほしいという話がありました。(参加者提供情報)
サンコウチョウは夏鳥で、生田緑地でも営巣したという記録はあるようですが、最近は営巣していないようです。
越冬地の森林が破壊されて、数が減少していると聞きます。
神奈川県絶滅危惧U類(VU)です。
隣のアオジは冬鳥です。
これも神奈川県絶滅危惧U類(VU)です。
野鳥の森では良く見られます。
野鳥の森周辺はカケスも多いです。
アカハラも4月の渡りの頃は群れているのが見られます。
【モニタリング B03】 野鳥班が行っている生田緑地定例調査の野鳥の森地区のデータ
野鳥の森地区について分離したデータを提供してもらえるなら野鳥の出現状態をモニタリングできます。
東側の斜面の裾には水流があります。
この水流は年1回程度は手を入れています。
園路沿いに垣根のように植栽されていたヒサカキが倒れて、人の踏み跡が沢山ありました。
この冬、マナーの悪いバードウオッチャーが大勢出入りしたかも知れません。
野鳥の森の整備時につくられた野鳥のための水飲み場などを再生して、下流部の水辺を保全したいところです。
夏期(4〜8月)は水辺に入れないように対策を講じる必要が出てきたかも知れません。
【モニタリング B04】 水生昆虫については成虫の出現数が指標になると思います。
垣根のように植えてあったヒサカキが殆んど倒れてしまいましたが、リョウメンシダは繁茂しています。
【モニタリング B05】 リョウメンシダ
ユリノキの花が咲いていました。
園路にいくつも花が落ちていました。
かなりの数が落ちていたことから、カラスなど野鳥の仕業だろうという話になりました。
ここにはムラサキ科の植物“Y”が生育しています。
この植物は神植誌2001によると神奈川県内の分布が丹沢・箱根と三浦半島の一部、川崎・横浜の北部地域に限られています。
山地に分布が限られるような植物があることも生田緑地の特徴です。
昔、盗掘にあったことから情報公開には慎重になっていますが、今回のモニタリングでは健在と言えます。
但し、以前は園路にも広がっていましたが、この日は園路内には殆んど見られませんでした。
【モニタリング B06】 ムラサキ科“Y”
オカタツナミソウが咲いています。
今年、大きなサクラが倒れて、危険ということで伐採したものです。
エゴノキの花が咲いています。
ヒヨドリが来ています。
ここは昨年、アオキやアズマネザサなどを除伐した場所です。
1年目の今年は活発な草本の繁茂は見られません。
園路に近い所に、ベニシダなど3種類のシダ、アオイスミレ、ホウチャクソウ、チヂミザサ、オニタビラコ、ヤブニンジンなどが見られました。
斜面部分の土壌はまだ安定していないと推察されます。
【モニタリング C02】 斜面部分の植生の遷移について継続して状態を観る必要があります。
植物“K”が咲いていました。
これは日本固有種です。
神植誌2001によれば、神奈川県内では丹沢・箱根などの山地の外は川崎市北部だけに記録があるとされています。
生田緑地においても、分布は当該地だけになってしまったようです。
【モニタリング B07】 アジサイ科“K”、チゴユリ
観察舎周囲のヒサカキは少しずつ減らしていくことで、昨年の市民部会で合意され、協議会においても承認されたと記憶しています。
実際の植生管理はこれからの予定でしたが、奥のヒサカキやアズマネザサが除伐されているように見えました。
これは後日確認したいと思いますが、もし誰かが実施したものだとしたら問題です。
最近、市民部会で合議したことを守らない植生管理が数ヶ所で行われています。
野鳥の森については、そうしたことが起こらないように注意したいと思っています。
折れた木を伐採して、その材を放置してありました。
アズマネザサをなぎ倒すように捨てられています。
【モニタリング C03】 台風等による倒木や折れた樹木の片付け方法
来園者の安全や気持ち良い景観づくりのために、倒木や折れた樹木の伐採が必要になることはあります。
その場合でも、伐採材の処理は適切に行われなければなりません。
雑木林の斜面に投げ捨てるなどは行うべきではありません。
こうした行為が、この日のモニタリングで多数発見されました。
全てが昨年度行われたもののようです。
ここは、一昨年の台風で折れたままにされているものです。
菖蒲池南側斜面の上がここです。
この辺りの常緑樹を少しずつ間引くことを計画していますが、下の斜面は少し暗い状態のままにしようということになれば一旦中止になります。
その場合は、斜面の状態についてのモニタリングについても再検討することになります。
ここに捨てられている材も同じです。
伐採した材を投げ捨てたもののようです。
枝が折れた時の処理の仕方がおかしい。
【モニタリング C03】に同じです。
ここには神奈川県内でも生田緑地にしか無いかも知れない植物“M”があります。
生田緑地の中でも2ヶ所だけです。
この植物の保護のためにアズマネザサ刈りを始めています。
このような植物は株数を数えるというモニタリングが必要だと考えています。
【モニタリング B08】 植物“M”の株数調査
テーブルベンチのところで休憩し、話し合いを行いました。
ここにもホタルガの幼虫が出てきました。
食草はヒサカキです。
土を採取していく人が後を絶たないために、ついに一部が崩れました。
益々えぐれてしまって危ない状態です。
【モニタリング C04】 崖の状態
昨年、タイワンリスが目撃されました。
専門家が調査してくれたのですが、フィールドサインを確認することができませんでした。
評価としては、誰かが放したものだろうということで、増えないことを期待しています。
【モニタリング A03】 タイワンリスの目撃情報の蒐集
この辺りはシラカシの若齢木が集中して生えています。
生田緑地では亜高木層が常緑樹林化している所が増えています。
落葉広葉樹林として保全するためには、このような場所の植生管理が問題です。
ここは小径木の伐採について合議されていますが、少しずつ実施して、自然に対する負荷は小さくしなければなりません。
【モニタリング C05】 シラカシの広がり
この辺りにも伐採材が投げ捨てられています。
強風などによって折れたり、倒れたりした樹木の伐採について処理方法が問題です。
今までは、このようなことは無かったと思いますが。
至る所に放置されている材を全て取り出さないといけません。
シンジュが数本出ていました。
これは侵略的外来生物として駆除しなければなりません。
【モニタリング A04】 シンジュ(ニワウルシ) 見つけ次第駆除すること
こうした場所のアズマネザサ刈りについては今までにいくつかの方法が試されています。
その結果では、根本で切る方法が良いと思われます。
ササの高さについては様々な考え方があります。
低ければ谷戸の中を覗けますが、風が抜けやすくなるために谷戸の中が乾燥しやすくなります。
【モニタリング C06】 アズマネザサの繁茂の状態
ヤマアジサイがあります。
【モニタリング B09】 ヤマアジサイ
ここはアズマネザサのみの下草刈りをすることで合意していた区域でしたが、何本もの樹木が伐採されてしまいました。
お蔭ですっかり明るくなってしまいました。
しかも、林床には伐採によって出た材が散乱しています。
【モニタリング C07】 林床および斜面下部の植生調査
トキホコリは復活するか。
下の広場のヒマラヤシーダの元気が良くありません。
舗装をやり直した時に何かあったのだと思います。
今日の感想・意見など
・夏は涼しい木陰があるか。冬は日溜りがあるか。そんな場所がある多様な環境になっているか。【モニタリング C08】
・木を伐って放置するのは問題。
・園内の巡回パトロールが必要。
・今回歩いた範囲では、オオルリなどは野鳥の森の方が多くて、マヒワはヤマハンノキが好きなので中央広場南側地区の方が多い
・ヒサカキは野鳥が好きなので、伐採方法は工夫して欲しい。
・生田緑地では、ヒヨドリの個体数が一番多い
・花とか、実とか、自分で分かるものを毎年観察してみようと思う。
・自分の好きな植物を定期的にみて変化が分かるのは面白そう。
・モニタリングというと指標植物を決めて、森を管理した時に、出てきて欲しいものが出てきたとかいうことでみることが多い。
出て来ては困るもの、アオキとか、シュロとかがでていると管理ができていないという指標にもなる
・こういう空間は野鳥が好きだとか、管理の方法によって多様な空間をつくるのが面白い。
・自分の好きな植物を定点的に調べていくのが面白い
・今まで良いと思っていた所が気持よい空間ではなくなっていた。
何故かと考えながら歩いていました。
原因は、伐採材が放置されていたためだと分かりました。
今回の活動によって当該地区について考えられたモニタリングは次の21項目ありました。
【モニタリング A01〜A04】 外来種についてのモニタリング
【モニタリング B01〜B09】 大切にしたい生物についてのモニタリング
【モニタリング C01〜C08】 その他のモニタリング
また、今回のモニタリングの結果としては、菖蒲池のキショウブ、園路から投げ捨てられた処理材が非常に多く見られたことでした。
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