生田緑地の植生管理

2010年度市民部会
第4回《植生調査の勉強会》


日時 2010/7/9(金)10:00〜12:30 曇
場所 生田緑地
講師 藤間煕子
参加 増田 将、小泉恵佑、城本法子、白澤光代、飯室 健、五十嵐 豊、梅津英樹、石崎みどり、前田 宏
多摩区役所道路公園センター 今井 勝
市民部会事務局 岩田臣生、岩田芳美

岩田/今年度第4回の市民部会を開催する。生田緑地の植生管理を進めているが、一番の課題がモニタリング、植生調査だ。
一般市民が自由に参加できる市民部会にとっては、植物を見分ける能力を要求される植生調査は馴染み難い活動だ。誰にでもできる簡単な方法がないだろうかと試してきた。
植生管理協議会では、実際に植生管理をする人がモニタリングも行うべきと考えていて、このための勉強会を繰り返して、植生調査を実施できる人を育てていくことになった。
今回が、その方向性における第1回の勉強会になる。
本日の講師をお願いした藤間先生は植物社会学が専門で、各地で植生調査を行っており、生田緑地の萌芽更新地区のモニタリングも継続してきた。
今日の勉強会のフィールドは萌芽更新地区を使うが、ここは1998年12月に萌芽更新を目指してコナラ等を伐採した所だ。
実施に至った経緯については分からないが、伐採後に侵入した樹木の方が大きく成長してしまうなど、魅力的な雑木林になっていない。
市民部会では、合議によって、ここの目標植生を植生管理の勉強会や観察会に使えるクヌギ・コナラ林として、そのための植生管理を実施している。
この2〜3年は、アカメガシワ、ムクノキ、キリなど大径木化した樹木を伐採していて、林床はだいぶ明るくなってきたが、まだ道筋は見えていない。
萌芽更新地区とは、そのような場所だ。
この萌芽更新地区をフィールドにして、植生調査についての体験的学習を行い、感じたことについて話し合いたい。

藤間/大学院で雑木林を調べていた。多摩丘陵の雑木林について、植生管理を行った地区の植生の変化を見てきた。横浜市の公園では14年間継続して調査しているところもある。 この萌芽更新地では伐採した翌年の4月から4年間は毎月、かわさき自然調査団植物班の協力を得て実施していた。 今までは学問的な立場で調査を実施してきたが、市民が植生調査を行うことについても、いつ、どこを、どのように行えば、一番効果的かというのが概ね見えてきた。 今回は、なるべく簡単な、手間のかからない、楽な方法を提案したいと思う。

(参加者の自己紹介)

藤間/実施している植生管理が適切だったか、目標植生に向かっているかを客観的な方法で調べる必要がある。
そのための調査を専門家に依頼すれば費用もかかる。だが、一般市民にとっては大変なことでできない。ということになりがちだ。
今回、市民部会事務局から、市民が簡単にできる植生調査の方法はないかという問いかけを戴いた。
まだ経験はないが、例えば、14年間実施しているモニタリングでは、私一人で年2回調査するだけで植生変化を把握できている。
生田緑地でも年1〜2回実施すれば何とか方向が見えてくると思う。
伐採後のモニタリングについて資料にまとめた。
本当は伐採前に、その場所の植物群落を調べて、目標とする樹林として、若返らせたいとか、種の多様性を増大させたいとか、或いは CO2 固定量を増大させたいといったことを設定した方がいい。
八王子のある公園では伐採された後がススキの草原になっているところがある。こんな管理をすれば雑木林もススキの草原になるということが分かった。
樹林の伐採後にモニタリングを始める場合は隣接の樹林について群落調査をしておくと参考になる。
次に、その樹林の変化を調べるためのサンプルとなる調査区を選ぶ。選び方については現地で話したい。
調査項目としては、萌芽率調査、成長調査、樹木調査、群落調査などがある。

岩田/適切な植生管理を進めるためには、モニタリングが不可欠だ。そのモニタリングについて基本的な話をして戴いた。
生田緑地の市民部会では、手をつける前に目標植生について話し合い、合意が出来てから植生管理を実施している。
その時に、その状態を客観的なデータとして記録することが、まだ、できていない。
そこで、今日は、植生(群落)調査について勉強したい。
実施前の状態を調査して記録し、実施した後、どの様に変化したかを調べて記録する。
これに基づいて、目標植生に向けての植生管理を計画したい。
今日は萌芽更新地区を使って、植生調査について勉強する。
植生調査は植生管理対象区域内に調査のための区画を設定して、その中の植物の状態を調べて記録する。
その調査区を何処に、どの様に設定し、どの様に調査するかを全員で考え、実際に体験して戴きたい。


...萌芽更新地区の外周を観察しながら歩き、地区の上側の木道に移動した。
...萌芽更新地区を見た印象を聞いた。
・雑木林というのは物騒なイメージがあるので、避けて通ることが多かった。こういう機会が無いとこういう景色を見られない。大事な経験だと思う。
・さっぱりしている。手入れが行き届いている。
・アズマネザサが繁っていて、調べるのは大変そうだ。
・暗い。(落葉樹林は夏が一番暗くなる。)


藤間/ここは1998年12月に伐採された。私は翌年の4月に初めて見た。
その前に、知人が、「生田緑地の雑木林を丸坊主にしてどうするんだ。」と憤慨して話していた。
そこで、本当に丸坊主なのか見てみることにした。
それから毎月来て、調べて、それを「切株便り」にして、調査に関わってくれた人に配ってきた。

今はこんなにササが繁っているが、冬の間は丸坊主の状態になる。雑木林の林床に生える植物は秋に地上部が枯れてしまうのだ。
それではいつ調べるかというと、植物がいっぱい出ている時期だ。
でも夏になると繁り過ぎて、中に入るのが大変だ。
そこで地中の植物が全て芽を出した頃、4月末〜5月末ぐらいに調べる。その頃なら、ここに出てくる植物の95%ぐらいは把握できる。
他の公園でも、この時期に調査をしている。

成長調査は12月頃に実施するのがいい。

このことから1年に2回がいいと考えている。ただ、初めの年はそれでは不安だというのであれば、更に1〜2回加えてもいい。
調査の時期については、今まで多摩丘陵で調査をしてきた経験から、そのぐらいでいいだろうと提案させて戴く。

次に調査区をどこにとるかだ。
...全員、虫よけをつけて、樹林に入り、自分ならここという場所を選んでもらった。

このササはアズマネザサだ。
外から見ているとササしかないように見えたと思うが、中に入って見るといろいろなものが生えていることが分かる。
ここでは、北部公園事務所が10m間隔で立ててくれた支柱を使って、縦20m、横30mの範囲を調査区とした。
しかし、これだと地形など条件の違う所が入ってしまって失敗だと気がついたが、そのまま調査を継続した。
調査区は、できるだけ均一な所を選ぶことが大事だ。
そして、目標樹林(目標植生)を考慮して、(その評価ができるように)調査区を選ぶことになる。

岩田/調査区の大きさはどのぐらいまで小さくできるか。

藤間/1辺の長さをその区域の一番大きな樹木の高さにすれば充分だと考えている。

岩田/一つの植生管理区分の中に地形の条件が異なる場所がある時には各々の場所に植生調査区を設けた方がいいのか、或いは、その一つの植生管理区分を代表できそうな場所に1つ設ければ足りるのか。

藤間/一つの群落調査で済ませている。管理をしていくうちに、どうも様子が違うので調査区を設けた方がいいと思ったら、その時に、そこに設ければいいと思う。

岩田/一つの植生区分の周辺(林縁)のところと中心部は植生が異なる。植生調査区は中心部で取るのが基本なのか。

藤間/そうだ。実は、初めに北部公園事務所が立ててくれた支柱は園路に近過ぎた。少なくとも 5mぐらいは離した方がいい。
ある公園では園路ギリギリに調査区を取ったが、来園者が園路から入って、踏み荒らしている。それでも公園なので仕方ないと思って調査している。

・調査区は四角い必要があるのか。

藤間/方形でなくても構わない。


...今日のスタディとしての調査区を園路から 5m離して、縦 5m、横 10mで設定し、スズランテープで囲った。

藤間/横浜の天王山公園では杭だけ打っておいて、調査の度にスズランテープを張って実施している。
アズマネザサは、多摩丘陵ではどこにでも繁って、中には3〜4mの高さになり、暗い雑木林があちこちにある。
冬も枯れない。気温5℃以上の時は光合成をやっている。つくられた養分を根に蓄えているので春になるとどんどん大きくなる。
このアズマネザサを何とかしたいという時は刈り取るしか方法がない。そして、上を暗くするしかない。

樹林は4階建ての構造になっている。
一番高い樹木は4階の住人で、太陽光線を一番多く受ける。
その下にあるのが亜高木層だが、雑木林では無いことも多い。
次が2階の住人で、低木層だ。日照が少なくても生育できる樹木が多く生えている。
1階は雑木林だと1m以下ぐらいの高さで生えている。草は勿論だが、樹木の芽生えも入る。1階の乏しい太陽光線で生きている全ての植物が入る。
...群落調査表を参照しながら
群落調査では、まず調査年月日を記入する。

最初の調査の時は樹木調査も行う。
...調査区内の高木、亜高木、低木について樹高、胸高周長を調べ、樹木調査を体験した。

...高木層、亜高木層、低木層、草本層について樹冠などが占有している割合を目視で計測して記録した。
20%単位でいい。ネザサは余程大きくない限り草本扱いとする。

...次に、高木、亜高木、低木の種類を調べた。
被度は、1:ほんの少し、2:少し、3:たくさんの3段階で区別する。
ツルは高さが1mを超えたら低木扱いとする。

岩田/今日は植生管理のモニタリングとして行うべきことを一通り提案して戴いた。
毎木調査は最初に1回実施するだけで普通は充分だ。
毎年実施する必要があるのは低木層、草本層の調査だ。
市民部会で今課題になっているのは、種類を同定する能力を要求される草本層の調査だ。
今日は、適当な番号や名前をつけておけばいいということだった。
植生管理の植生調査では同じ場所を継続して調べていくので、その植物を見馴れることで判別できるようになると思う。


...園路に移動して、お茶とお菓子で休憩

藤間/群落調査では「被度」と「群度」で植物の生育状態を表現する。
被度はどの位の量が繁茂しているかを面積率として捉えたものだ。
群度というのは量的には少しだが広く分布しているとか、集中分散の状態を評価するものだ。状態を表すには必要なのだが難しいので扱わない方法を提案した。
ただ、イネ科植物などでは「群度」を表現する工夫が必要だろう。

藤間/植生調査は難しいと感じただろうか、この程度ならやれると思っただろうか。
今日は植物の名前を知っている人がいたが、いつもそういうわけにはいかない。分からない時は代わりに番号でも何でもいい。
何回かやっているうちに、花が咲いたりすると、ああ、あれだったのかということで名前が分かることになると思う。

岩田/今日はモニタリングとはこういうことをやることだということを話してもらった。
こんな活動ではきついと思った人もいると思う。
私たちが市民部会の活動をしていて大変だと思っているのは、最後にやった群落調査、所謂、植生調査の部分だ。
今、先生から知っている人がいればという話があったが、知っている人がいると、その人に頼ってしまって、他の人は何もしないうちに1日の活動が終わるということになる。
できれば、全員が関われる形で進められるようにしたいと考えている。
植生管理をしている地区が対象なので、生育する植物も限られるし、継続して観察できる。活動しているうちに、少しずつ、覚えてくると思う。

次回は実際に群落調査を行って、データを記録することを行う。
活動は役割分担を行うが、一人一人が全体に関わるようにして、皆で力をつけていきたい。
予定としては、植生調査の勉強会は年4回ぐらい開催したい。

...最後に感想を聞く。
・もっと楽なことだと思った。やってみると面白い。
・難しかった。植物の名前が覚えられてよかった。
・雑木林は物騒な所というイメージで避けていたが、植物を観察したりしているうちに見る目が変わった。楽しかった。また、参加したい。
・いつも草刈りをしているが、こんなに沢山の植物が生えているとは知らなかった。
・植物の名前を覚えたいと思ったが、覚えられなかった。
・まだまだ勉強が足りないと思ったが、知らないことが多いから楽しいのだと思う。

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特定非営利活動法人かわさき自然調査団
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