日時 2010/10/6(水)12:30〜13:30 晴
場所 生田緑地青少年科学館裏谷戸
参加者 岩田臣生、岩田芳美
この日の里山倶楽部(市民部会)の時に、「中規模ビオトープ池の水が涸れている」との情報を得ましたので、
終了後、状態を確認するために現地に行きました。
里山倶楽部に参加していた多摩区道路公園センターの職員も同行しました。
現地は、生田緑地の自然の質を特徴づける生物の棲息地であり、涸れているというビオトープ池は岡本太郎美術館建設時に、
建設地に棲息していたホトケドジョウを保護するために造られた池の一つです。
現地を見て驚いたのは、自然に池への水が止まったのではなく、人為的に様々な行為がなされていることが分かりました。
そして、その原因者が青少年科学館改築工事の工事業者であることが分かりました。
直ちに、現場責任者を呼び出して話を聞きましたが、これだけの大事件を起こしながら悪いことをしたという認識がありませんでした。
私たちは、柿生の里特別緑地保全地区を見学させてもらうというボランティアの方との約束があったため、
事件の詳細確認等については、まずは多摩区道路公園センターに任せることにして生田緑地を離れました。
柿生の里特別緑地保全地区の見学を終えて、9日に予定されている里山カフェの打ち合わせをしているところに、
多摩区道路公園センターから電話があり、概略の報告と当該工事の責任者から連絡があるとのことでした。
そして、川崎市まちづくり局の電気設備担当係長から、会って説明したいとの電話があり、
里山フォーラムイン麻生との打ち合わせもそこそこに生田緑地に引き返すことになりました。
生田緑地に戻って、早速、川崎市青少年科学館において話し合いが行われました。
出席者は、川崎市まちづくり局の電気設備担当係長と直接の担当者、電気工事の現場責任者、青少年科学館館長と職員1名、
特定非営利活動法人かわさき自然調査団水田ビオトープ班 2名です。
次のような状況および問題点が明らかになりました。
●科学館裏谷戸から雨水が流れ出てきて、工事に支障を来したため、電気工事の現場責任者の判断で、降雨水の流れる方向を変更する工事を行ったこと
●この行為を実施したのは4日(月)であること
●生田緑地の管理をしている多摩区道路公園センターには何の相談もしていなかったこと
原因となった洪水は日常的に起こっており、原因は排水口に落ち葉や土砂が詰まったためであり、その落ち葉や土砂を取り除けば問題は解消されるということを
確認できたはずなのです。
●当該工事は川崎市まちづくり局が担当して行われていますが、当該工事に接している場所が生田緑地の生物多様性保全の上で非常に重要な場所であり、
工事区域としてコンセンサスを得ている区域以外の土地について工事行為をしてはならない、等々の注意をしていなかったこと
また、状況を整理すると、工事業者が行ってしまった行為および問題点は次のようになります。
(1)生物の棲息域として柵を設けて、看板(写真01)を立てて立ち入りを禁止している区域に入り、流れる方向を変えるために水路を掘削したこと(写真02)
ここで棲息環境を保全している生物は神奈川県レッドデータブック生物調査報告書2006において準絶滅危惧に指定され、県内の棲息地は5ヶ所と記されています。
寒冷地の生物で、氷河期の生き残りと言われ、生田緑地のような大都市の市街地の中の公園に棲息していることは学術的にも不思議なことだそうです。
半水生で地表を湧水が常に潤しているような湿地が棲息環境となります。
水路が掘られると周辺の水は、そこに集まって流れるようになり、周辺の地面が乾いてくる原因になります。
また、立ち入ることによって、そこに棲息している幼虫を踏み殺す可能性もあります。
この地区にホトケドジョウの中規模ビオトープ池を造った時に、関係者の一人が池への水を導くために、勝手に、この区域に水路を掘削したことがありますが、
これはホトケドジョウのことしか考えない、思慮に欠ける行為であるという批判を受けることとなり、その人は生田緑地では活動できなくなりました。
写真01
写真02
(2)中規模ビオトープ池(写真03)に水が入らないようにしたこと
この池はホトケドジョウの中規模ビオトープ池として岡本太郎美術館建設時に、川崎市教育委員会として教育長も参加して造られた池です。
その後は、この時に結成された「生田緑地の谷戸とホトケドジョウを守る会」が管理しています。
最近では、オニヤンマや上記生物の棲息も確認されていました。
現地確認時は、雨水によって流されてきた土砂が堆積していましたが、それを見て水辺の全ての生物が消滅したと判断するのは早計です。
写真03
(3)谷戸の東側の園路側溝の土嚢と土砂を全て浚渫してしまい、その土砂を斜面下部に積んでしまったこと(写真04)
この区域も前記生物の棲息地です。
冬期には水辺の落ち葉の下などで越冬していると思われますが、この落ち葉を園路清掃によって綺麗に掃き取られ捨てられるということが度々繰り返されており、
棲息個体数の減少に拍車をかけています。
この件については、管理者である北部公園事務所と何度も話し合いをもっていますが、清掃業者によってやられてしまうという事件が絶えず、
今年の冬にも側溝の浚渫が行われてしまったばかりでした。
こうした事件が絶えないことから園路の一部閉鎖をお願いしたこともありましたが、北部公園事務所長からは一旦園路として整備した部分の通行を止めることはできない
と言われました。
やむを得ず、園路の通行を妨げない範囲で、簡易な方法ということで、工事現場でよく見かけるコーンを並べて保護することで合意していました。
今回現地を確認した時に驚いたのは、コーンの数が3つしかありませんでした。
しかも、そのコーンのバーには「工事中 ○×電機」の標識(写真05)がつけられていました。
さて、これはどうしたのでしょうか。
ところで、このコーンの置いてある場所はトキホコリの生育地でもあります。
トキホコリは、神奈川県レットデータブック生物調査報告書2006では絶滅危惧TB類に指定され、また国においては絶滅危惧U類に指定されている植物です。
昭和初期の東京では庭先に普通に見られたものですが、今では県下の総個体数は250株未満と推定されるとあります。
現地確認の時には、このトキホコリが踏み荒らされていたことも気になりました。
写真04
写真05
(4)県の樹見本園の中の園路の通行止め(写真06)
工事区域のフェンスは無く、代わりに園路を数ヶ所通行止めにしてありましたが、多摩区道路公園センターでは知りませんでした。
この通行止めは、上記の保護のために使っていたコーンと同じものでした?
写真06
話し合いの結論
業者の態度は不愉快なものでしたが、工事責任者として対応してくれた係長はの態度は冷静かつ真摯なものでした。
(イ)中規模ビオトープ池に水を入れる作業を、緊急の処置として直ちに行うこと(手をつけるのは側溝の部分のみ)とし、
会議終了後、直ちに実施して戴きました。(写真07)
(ロ)水路を掘ってしまった部分の原状復帰作業は水田ビオトープ班岩田が行うこと
(ハ)東側側溝の浚渫した土砂の処理などは水田ビオトープ班岩田が行うこと
(ロ)および(ハ)は、こんなことを平気で行ってしまう業者に任せることはできないこと、急いで対応しなければならないことなどから、
こちらで行うことにしました。
責任を取ってもらいたいとは思うのですが、生き残った生物のことを考えるとやらせられません。
くやしい思いだけが残ります。
ここに記した生物は生田緑地の自然を語る上で重要な生物であり、横須賀自然博物館の大場先生の指導も戴いて、棲息地に直接手を入れるのは問題なので隣接する場所を棲息地にする、棲息できる環境を広げるという方法を実践し始めたところです。
この生物にどれほどのダメージを与えてしまったかは不明ですが、できる範囲での回復策はとりたいと思いました。
(ニ)フェンスをきちんと設置すること
(ホ)二度と、この様なことが起こらないように、生田緑地がどの様な場所なのか、業者の教育を徹底することを約束してもらいました。
写真07
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