かわきた第247号(2014年1月発行)掲載「川崎の自然をみつめて」
ミゾゴイが語りかける川崎の自然

かわさき自然調査団 岩田臣生

 かわさき自然調査団では、今年、「川崎の自然もまだまだ捨てたものではない」ということを行政や市民の皆さんに知っていただきたいと思い、「川崎の生物100選」を選定し、12月に開催したシンポジウム「川崎の自然と生物多様性」で発表しました。その際、この100種の中から10種を選んでもらうアンケートを行ったところ、11位にミゾゴイが選ばれました。  このミゾゴイという野鳥が川崎で記録されたのは、環境省モニタリングサイト1000里地調査一般サイト生田緑地の中大型哺乳類調査の定点カメラが撮影したデータによってでした。 モニ1000生田緑地調査は、2008年に開始されたモニ1000第2期調査において一般サイトに登録されたことによって始まりました。定点カメラはカメラの前を通る哺乳類をセンサーカメラが感知して撮影するもので、哺乳類以外の生物、特に野鳥が撮影されることがよくあります。  2009年7月期に撮影された写真を同定していたところ、その中にミゾゴイと思われる姿を発見しました。念のため、野鳥班にも画像を送って確認してもらいました。 当時ミゾゴイは国の絶滅危惧IB類(EN)であり、神奈川県の絶滅危惧I類(CR+EN)でもありました。また、地球上に1000羽しかいないという報道もされていました。このため、川崎市の市街地の中の生田緑地に姿を見せるとは思ってもいませんでした。生田緑地でモニ1000の中大型哺乳類調査を始めてから1年経っていませんでしたから、この調査を担当している者としては興奮したことを覚えています。後になって、野鳥班からは過去に何度か目撃されているという情報をいただきましたが、普通に考えて川崎では出会えないだろうと思われるような生物の最初の記録としては証拠の有無が重要になると思います。 ミゾゴイは、分布がアジア東部で、冬は日本南部から台湾、フィリピン、中国南東部で過ごし、夏は日本の里山の暗い樹林で繁殖していると考えられています。繁殖地が日本に限られていること、しかも開発圧力の強い里山で生活しているらしいのです。このため、豊かな自然の残る里山を象徴する野鳥として扱われています。  生田緑地がモニ1000の一般サイトに登録されたといっても、大都会の市街地に囲まれた緑地ですから里地・里山という扱いをすることに疑問を感じる人も多かったと思います。ところが、ミゾゴイが撮影されたのです。このことは、モニ1000事務局である(財)日本自然保護協会をも驚かせたようです。  2012年に発表された国の第4次レッドリストでは絶滅危惧II類(VU)にランクダウンしましたが、生息個体数が非常に少ないらしいこと、繁殖地が日本に限られているということに変わりはなく、そんな野鳥が川崎にも飛来しているらしいということは、真に川崎の自然もまだまだ捨てたものではないということを物語っていると思っています。 ただ、2009年、2012年に撮影されているものの、毎年ではなく、繁殖も確認されていません。ですから、私たちは生田緑地の自然保全活動の目標の一つとして、ミゾゴイが繁殖できるような環境の再生もあげています。川崎市内にミゾゴイが飛来するような樹林が残っていることを大切なことだと考える市民が増えてくれることを願っています。  

この文章は、かわきた第247号 2014年1月発行に掲載されたものです。
《事務局へのメール》
特定非営利活動法人かわさき自然調査団
Kawasaki Organization for Nature Research and Conservation