かわきた第246号(2013年11月発行)掲載「川崎の自然をみつめて」
川崎に生き残っていた山地の植物

かわさき自然調査団 岩田臣生

   川崎の植物の調査は調査団植物班が1983年から継続していますので殆んど調べ尽くされているように思っていましたが、市内全域の調査となるとボランティア活動ということもあり、今でもまだ新たな発見をすることがあります。
 川崎は多摩川、多摩丘陵、そして低地部と地形的には大きく分かれていて、この違いは在来の植物の分布の違いにもなっています。
 多摩丘陵の雑木林や谷戸の水辺には、県内では、丹沢や箱根といった山地には普通に見られるような植物もあります。それも、丹沢や箱根、小仏山地、そして川崎市北部の多摩丘陵の一部など、県内では地域的に限られる植物が極めて僅かですが生き残っています。
今回は、そんな地域的に分布が山地に限られている植物をご紹介しようと思います。ただ、これらの植物は極めて個体数が少ない植物ですので目立ちませんが、川崎には、山地でしか見られないような植物が辛うじて生き残っているということを知っていていただきたいと思います。ご紹介するのは、ヤマルリソウ、アケボノソウ、ヒメシロネ、タチドコロの草本4種とコアジサイ、ネジキの木本2種です。
ムラサキ科のヤマルリソウは、福島県以南の本州、四国、九州に分布します。神植誌には「県内では丘陵〜山地のシイ・カシ帯〜ブナ帯下部にやや普通」とあります。市内では麻生・多摩・宮前・高津区の一部に生育しています。
リンドウ科のアケボノソウは北海道から九州にかけての比較的湿潤な山地に生育します。神植誌には「県内では丹沢、箱根に多く、しばしば丘陵地にもみられる」とあります。市内では多摩区内の1ヶ所に数株ですが生育しています。
シソ科のヒメシロネは北海道から九州の山野のやや中栄養寄りの湿地や溜池畔、用水路脇などに分布生育します。神植誌には「県内では丘陵谷戸や箱根仙石原などに分布するが少ない。」とあります。市内では麻生・多摩区に辛うじて残っていますが、小さな群落が数ヶ所あるだけです。
ヤマノイモ科のタチドコロは本州、四国、九州、中国に分布します。神植誌には「県内では北丹沢、東丹沢、小仏山地、相模原台地、多摩丘陵などに分布する」とあります。麻生・多摩区で見られます。
アジサイ科のコアジサイは日本固有種で、本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、明るい林内や林縁などに自生します。神植誌には「県内では箱根、丹沢、小仏山地、相模原台地などに多くみられ、樹林内に生える。」とあります。多摩区内の2ヶ所で記録されていますが、数本残っているかどうかという状態です。
ツツジ科のネジキは本州、四国、九州の低山から山地まで自生します。神植誌には「県内では主として丹沢、箱根、小仏山地の岩尾根にみられ、多摩丘陵ではモミが生えるような乾いた尾根に稀に生育する」とあります。麻生・多摩区に極めて僅かですが残っています。
丹沢、箱根などの山地にしか生育しないような植物が、川崎に僅かながら今も生き残っていることを大切に思う人が増えてくれることを願っています。

この文章は、かわきた第246号 2013年11月発行に掲載されたものです。
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