かわきた第241号(2012年11月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
オモダカ科の田圃雑草

かわさき自然調査団 岩田臣生

 川崎市域では、田圃や湿地は非常に少なくなってしまい、かつては農家を悩ませていた田圃雑草は希少な存在になっています。
 オモダカも田圃雑草の一つですが、平安時代には車の紋様に、源平時代には鎧や直垂に、武士の時代には家紋に使われたり、観賞用に用いられたり、農業以外の世界では好かれていた植物と言えそうです。 川崎で記録されているオモダカ科植物は6種あります。花が単性(雌雄異花)のオモダカ属ではアギナシ、ウリカワ、オモダカの3種、花が両性で雌しべが多数のサジオモダカ属ではサジオモダカ、ヘラオモダカ、トウゴクヘラオモダカの3種です。
 アギナシは国の準絶滅危惧種で、神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006では絶滅種としています。原松次が武州向ヶ丘村植物誌(1936、以下資料2という。)に記録していますが、神植誌88の調査では川崎市麻生区黒川の1ヶ所でのみ採集されただけで、その後の記録はありません。
 ウリカワは、水田に発生した場合、収量が3割減少するという雑草です。帝国女子医学薬学専門学校学友会による「武蔵登戸付近植物目録」(1932、以下資料1という。)に記録がありますが、その後の記録はありません。
 オモダカは、麻生区2007年、多摩区1994年、宮前区2010年、中原区2011年の記録が新しいもので、川崎に現存しています。数年前ですが、麻生区黒川の谷戸で、稲の根元に一面にオモダカが広がっている田圃があり、その田圃だけにイナゴが群れている光景を見たことがあります。
 サジオモダカの塊茎は沢瀉(たくしゃ)と呼ばれ、利尿効果などのある漢方薬として利用されるため栽培もされることがあったようです。川崎のサジオモダカは、資料1の他、川崎市生田緑地の植生(梶山三千男、1967)及び川崎市生田緑地の植物目録(川崎市土木部、1973)に記録されていますが、神植誌01では1978年以降の県内記録はないと記載されています。
ヘラオモダカは、県内では丘陵の谷戸奥の湿地や休耕田に見られ、川崎では多摩区1994年、麻生区黒川2005年の記録があります。
トウゴクヘラオモダカは、本州〜九州に分布する植物ですが関東地方に多いとされています。しかし、県内では稀で、主に多摩丘陵の湧水のある湿地に生え、箱根で採集された古い標本が残されていますが、現在は横浜市と川崎市に残っているだけのようです。 川崎市では麻生区1998年の記録がありますが、ここは大規模な開発が行われて消えたようです。多摩区では、資料1及び2にも記録されていますので、古くから確認されていた植物です。一度消えましたが、生育環境を再生したことによって復活しました。 国の第4次レッドリストでは絶滅危惧U類にダウンしましたが、県は絶滅危惧TA類です。川崎にはトウゴクヘラオモダカのような絶滅危惧種も現存しています。農業者からみれば肥料食いの雑草ですが、里山の自然に飢えている大都市住民にとっては魅力的な植物の一つだと思います。そして、川崎市民が皆で大切に守っているということ、それこそが川崎市民が誇れる地域文化だと思いませんか。

注)神植誌とは神奈川県植物誌のことであり、88は1988年、01は2001年のことです。

トウゴクヘラオモダカの花 トウゴクヘラオモダカの生育する湿地

この文章は、かわきた第241号 2012年11月発行に掲載されたものです。
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