かわきた第238号(2012年5月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
川崎のスミレ

かわさき自然調査団 岩田臣生

春の小川という文部省唱歌がありました。 その歌詞(1942年版)の一番は「春の小川は、さらさら行くよ。岸のすみれや、れんげの花に、すがたやさしく、色うつくしく 咲いてゐるねと、ささやきながら。」です。
半世紀程前の川崎市北部では、まだこの歌のような春の情景が広がっていました。 田圃にはレンゲの花が咲き、小鮒の泳ぐ小川の岸や道端にはスミレも咲いていました。 その頃の道端のスミレが何だったのかは分かりませんが、道路が舗装され始めた頃だったと思います。
現在、日本産のスミレは60種、県内には25種が自生(神奈川県植物誌2001)し、移入種(外来種)や園芸栽培種の逸出も見られます。
川崎市内では20種のスミレ(かわさき自然調査団植物班調べ)が記録されています。
20種のうち3種は在来種ではありません。 北米原産の外来種、アメリカスミレサイシンは市内全区で確認されています。 九州、沖縄などの南方からの移入種であるツクシスミレは、多摩区でのみ記録されています。 園芸栽培種が逸出したサンシキスミレは、麻生区と宮前区で確認されています。
川崎産のスミレ17種のうち、市内全区で記録されているスミレは、スミレとタチツボスミレです。 また、ヒメスミレも、幸区を除く6区で確認されています。 タチツボスミレは、個体数が最も多く、形態的変異が多いのですが、一番の普通種です。
逆に地域が限られている種は、エイザンスミレ(宮前区)、マキノスミレ(多摩区)、アギスミレ(麻生区)です。
このうち、マキノスミレは神奈川県の絶滅危惧TA類の植物です。 マキノスミレ以外にも、川崎には神奈川県絶滅危惧TA類の植物が2種あります。 まだまだ川崎の自然も捨てたものではないと思いませんか。
次に、麻生区と多摩区だけで確認されているのが、オカスミレ、ニオイタチツボスミレ、ヒゴスミレの3種です。
その他は3区以上の区で確認されている種が、アオイスミレ、アカネスミレ、アリアケスミレ、ケマルバスミレ、コスミレ、ツボスミレ、 ナガバノスミレサイシン、ノジスミレの8種です。
川崎市内でも、まだ、これだけのスミレが3月〜5月に見られます。 近所の公園緑地に花見に出かけた時などは、桜にばかり見とれていないで、地面にも目を向けてみてください。 スミレの同定は難しいのですが、スミレだということは誰でも分かると思います。 それほど親しまれてきた植物なのです。是非、じっくり観察してみてください。

コスミレ タチツボスミレ ヒゴスミレ ケマルバスミレ

この文章は、かわきた第238号 2012年5月発行に掲載されたものです。
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