大都市の身近な自然〜セミ



かわきた第234号(2011年9月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
オニヤンマの行水

かわさき自然調査団 岩田臣生

日本最大のトンボであるオニヤンマは多くの人から好かれている存在だと思います。川崎では6月下旬に現れ始め、10月末まで見られます。 一般的には平地から山地にいたる小川や湧き水、湿地の滞水など、極めて広範な陸水域に生息し、かなり薄暗い林内の水溜まりにも棲んでいるといわれ、日本全国に分布しています。川崎では多摩丘陵の谷戸の自然の水流、湿地等が生息地になっているようです。産卵は浅い流れの底の砂泥に産卵器官を突きたてて行われ、孵化した幼虫は水底の砂泥の中や落葉の下に隠れて生活しています。また成虫になるまでには5年かかるといわれています。市街化著しい川崎では今では開発コストの割高な小さな谷戸の水流も埋め立てるようになっていますからオニヤンマの生息できる場所は減少するばかりです。従って、川崎市域で考えれば絶滅を危惧すべき種になりつつあるかも知れません。東京都では既に絶滅危惧U類に指定されるまでになっています。 6月下旬〜7月に生田緑地の谷戸の奥の方で空を見上げるとオニヤンマが6〜8匹群れている光景が見られることがあります。羽化してから交尾できるようになるまでの未熟な個体は谷戸の奥の上空などで群れています。 少し経つと群れることはなくなり、谷戸の田圃の上、園路の上など5mほどの高さのところを飛んでいる姿をよく見るようになります。 先日、里山の自然学校の子どもたち7人と小さな池のアメリカザリガニの駆除のためにアメリカザリガニ釣りをしていたところ、みんなの目の前にオニヤンマが飛んできて、何度も水面に降りる行為を繰り返していました。バシャという音が心の中では大きく聞こえていました。一体何をしているのだろうと不思議に思いながら眺めていました。水面にはアメンボが沢山いましたからアメンボを捕食しているのかとも考えました。目が良ければ、しっかり視認できたかも知れませんが、姿を正確に捉えることはできませんでした。 後になって専門家に「オニヤンマは水に飛び込むことがあるのか」と尋ねたところ、暑さで体温が上昇し過ぎた時は水浴びをして冷やしているという話を聞きました。夕方の天気概況ではこの日の東京地方は34℃を超えていました。暑い夏は水に浸かり、体温を下げていたのだと分かりました。 それにしても水面に降りて、水に浸かって、そこから飛び立つ力は相当のものだと思います。ただ驚くばかりです。 私たちの生活から行水という習慣が消えて久しいと思いますが、トンボは暑さ対策に行水をしていたのですね。日本の夏の風物詩であり、エコな習慣だったと思いますが、住宅事情が文化を変えてしまったことを気付かされる出来事でした。

この文章は、かわきた第234号 2011年9月発行に掲載されたものです。
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