里山の自然学校



かわきた第231号(2011年3月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
里山の自然学校

かわさき自然調査団 岩田臣生


 2005年に開校した里山の自然学校も、早いもので6年目の事業を無事終了し、7年目の参加者募集も開始した。開始当初の2005、2006年度は助成金を得て、活動に最低限必要な器具を購入させて戴いたが、その後は参加料収入のみで運営している。
 6年間の各年度の参加者は20人、37人、27人、29人、19人、30人、合計162人になり、全プログラムの延べ参加者は1,420人回となった。
 今までの参加者の所属学校は市内の小学校が35校、横浜市内の小学校が7校、鎌倉市内の小学校が1校、東京都内の小学校が3校、中学校が3校であった。 参加者の属性が多彩になって、参加者にとっては、学校とも、地域とも異なる特別なコミュニティに参加していることになる。里山の自然学校の友だちに会うことを楽しみにして参加して来る子どもも多いと感じている。
 1年間通して様々な活動を体験させたいと考えたが、1年どころか2〜3年継続する子がかなりの割合で現れた。中には4年間(小5〜中2)参加し、5年目(中3)の参加申込みをしてきた子がいた。流石に、これは断り、代わりにお姉さん先生として活動してもらうことにした。卒業生が運営する側になって事業を継続してほしいとは思っていたが、まだ少し早すぎる気もしているが、それが2人になった。この高校生の先生は年齢も参加者に近く、里山の自然学校の参加者としての経験もあり、立派に役に立ってくれている。
 複数年参加する子どもが多かったため、個人を識別して数えてみると、参加者合計は112人であった。
 また、弟や妹も参加するケースが11家族もあった。
 里山の自然学校は、その開校前年の2004年に、公園の児童プールのヤゴの救出を体験したり、子どもたちを公募して生田緑地の夜の昆虫観察会を開催したり、生田緑地の谷戸に田んぼを再生し、稲を収穫したり、様々に子どもたちに体験させたいと思うことを私たちが体験する機会が多くあり、更に、かわさき自然調査団の活動拠点であった青少年科学館の館長から子ども向けの事業を計画してほしいという話があったことから、かわさき自然調査団にしかできない子どもを対象とした事業として企画したものである。
 プログラムは田んぼ活動、四季の里山体験、昆虫についての基礎的な学習の3本柱とした。田んぼ活動は田植え、案山子づくり、稲刈り、脱穀を基本プログラムとしている。昆虫については、プールのヤゴの救出作戦、ホタル観察、夜の昆虫観察、昆虫標本づくりを基本プログラムとしていたが、2010〜2011年は室内活動のための場所が得られず昆虫標本づくりは休止している。稲わら細工などの「つくってみよう」も同様であるが、2010年は脱穀の回に実施することができた。
 今の川崎の小学生は一人で多摩川に行くことも許されていないため、生物は本の中で学ぶものになっている場合が多いらしい。極めて珍しい生物の名前を知っていても、普通の生物をつかんだことも無い子どもが多い。こうした子どもたちに、私たちは身近な自然の見方、接し方を教えたいと考えている。
 かわさき自然調査団は1983年から川崎の自然を調査してきた団体である。植物や昆虫を専門とする団員にも講師になってもらうことで、出会った動植物についての専門的な話をしてもらっている。子どもたちが、実際に動植物に触れて、五感を使って観察すること、納得するまで堪能させること、自分で考えることを基本にしたいと考えている。田植えや稲刈りでは基本的なことは教えたが、後は子どもたちにまかせた。ヤゴの救出作戦では、ヤゴに触れなかった子どもが友達の行動に刺激されて、いつの間にか触れるようになっていた。各回の内容の構成が様々であるため、各回で主役になる子どもも替わる。主役になれる機会をたくさん用意してやることも大事だと感じている。
 特定の小学4〜5年生を、年間通して相手にすることができるということは、一人一人の顔と名前、それに性格まで知ることとなり、一人一人のケアが可能となる。初めのうち知識をひけらかせていた子どもが自然体験を通して素直に話を聞ける様になったり、生き物を触れなかった子どもが平気でつかめるようになったり、泥まみれになることも厭わずに田んぼの中のアメリカザリガニを手づかみにしたり、持ち帰りたい生き物を捕まえても観察したら逃がすということを当たり前のこととして行動するようになった。
 子どもたちは皆、非常に個性的であり、企画段階で感じていた不安は消えて、私たちは毎回非常に楽しく、子どもたちと一緒に活動している。身近な自然を見つけて、大切にする人に成長してくれるかどうか、その輪を広げられるかどうか、それは未だ分からない。しかし、このフィールドで自然を教える活動は、このフィールドの自然を保全する活動の評価、言い換えればモニタリングでもあると思う。自然に手を入れたことの結果を自ら環境学習プログラムで使うことで評価することになっている。その意味で、これもまた生田緑地の自然の保全活動の一環であると考えている。

この文章は、かわきた第231号 2011年3月発行に掲載されたものです。
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