川崎のイヌタヌキモ −川崎にも希少な自然はある−



かわきた第222号(2009年9月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
川崎のイヌタヌキモ
−川崎にも希少な自然はある−

かわさき自然調査団 岩田臣生

 半世紀にわたる都市化によって在来の自然の多くが失われた川崎にも辛うじて残っている希少な自然がある。神奈川県内でも僅かの場所にしか無いような種が川崎市内にも僅かながらあるのだ。勿論、普通に見られる生物が沢山棲息していることの方が本当は大切であると思うのだが、他には無くて川崎にはあるというものも自然の質を考える時には重要になると思う。
植物に限っても、神奈川県RDBの絶滅危惧TA類が4種、絶滅危惧TB類が4種ある。今回は、その中からイヌタヌキモを紹介したいと思う。
 イヌタヌキモは環境省RDBでは準絶滅危惧種である。神奈川県植物誌2001では確認されている確実な自生地は無いと記されている。 ところが麻生区黒川はるひ野開発の過程で、開発者が地域内の緑地等に保護していたことが分かった。記録によると開発に伴う環境アセスメントによって存在が明らかになった保護対象動植物を現在の黒川谷ツ公園と黒川よこみね特別緑地保全地区の湿地に分けて移していたようである。しかし現在、それらが全て残っているわけではない。現黒川谷ツ公園に移されたイヌタヌキモはアメリカザリガニに食われて消えたという話が伝えられている。また、この2地区が川崎市へ移管される段階になって生物の棲息環境の保全がなされなくなった。
2006年春、数人の団員がはるひ野の西の湿地にイヌタヌキモを見つけ、近くに行くたびに観察されることとなった。そして、その年の夏、水温が40℃を超えて、生育が危ぶまれるところとなっているのを見つけ、数本を採取し、保護栽培を試みた。これは、何とか元気を取り戻し、殖芽をつくって越冬したが、現地のイヌタヌキモは、その後、消滅してしまった。
結果的に、川崎市黒川産のイヌタヌキモが手元にあるものだけになってしまった。今後の方針としては、黒川に戻し、自然の状態で生育していけるようにしたいと考えている。このために両地区の数ヶ所で栽培試験を行いたいと思ったが、北部公園事務所から待ったがかかった。地元のある団体がイヌタヌキモを保護し、地元で大切に守りたいということであったので、今春、成長し始めたイヌタヌキモを少し提供し、栽培を試してもらっている。
8月になって、手元のイヌタヌキモは水中から穂を出して花をつけている。何とか早く、黒川の水辺に復活させたいと思う。

2009/8/16 ベランダで咲いているイヌタヌキモ

2006/8/29 保護採取時のイヌタヌキモ

この文章は、かわきた第222号 2009年9月発行に掲載されたものです。
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