かわきた第214号(2008年5月発行)掲載「川崎の自然をみつめて」
川崎のタテハチョウ科の蝶(ちょう)の話題

かわさき自然調査団 岩田臣生

国蝶オオムラサキが生き残っていた

(タテハチョウ科コムラサキ亜科オオムラサキ属)
オオムラサキの分布域は全国だが、生息環境は限られ、適度に管理された、やや規模の大きな雑木林を好んで生息する蝶である。かつては川崎市内の雑木林でも見られたものの、都市化の過程で消えたものと思われていた。それが数年前に川崎の某所で発見され、復活を期待されている。ただ、最近行なわれている里山管理の多くが生物の棲息(せいそく)環境を保全するという視点が欠けているため、その棲息が心配される。

外来(がいらい)種(しゅ)アカボシゴマダラ

(タテハチョウ科コムラサキ亜科アカボシゴマダラ属)
環境省が要注意外来生物としたアカボシゴマダラは1998年に藤沢市で確認されてから分布域を急速に拡大している蝶だ。市街地の公園などの人工的な環境にも適応していることで分布域を拡大している。川崎では一昨年はまだ少なかったものの、昨年はよく見かける蝶になってしまった。同属の在来種のゴマダラチョウが影響を受けるのではないかと心配されている。

多摩川のコムラサキ

(タテハチョウ科コムラサキ亜科コムラサキ属)
多摩川の蝶にも最近変化があった。コムラサキが復活したのだ。
コムラサキは中型のタテハチョウで、幼虫はヤナギ類の葉を食べる。河川敷などのヤナギの木の多い所に棲(す)んでいて、成虫は樹液に良く吸汁に来る。 珍しい種類のチョウではないが、川崎市では40年ほど記録がなかったのだ。2006年は東京都の公園緑地でも復活したという報告があり、大都市近郊のこの変化の原因について関心が集まった。

蝶に限らず川崎の生物の分布や盛衰(せいすい)については、地球温暖化、都市化など様々な要因があると思われる。外来種の競合についての影響を知るためには変化自体を量的に継続的に把握する方法がまず必要である。川崎の自然に関心を持つ大勢の市民のネットワークをつくることができたら、各々の観察情報(いつ、どこで、何個体見かけたなど)を集めて統計的に解析することで増減の傾向を把握することは可能な気がしている。この様な新しいスタイルの「皆でできる自然調査」を展開できないだろうか。読者の皆さんの協力を仰(あお)ぎたい。


オオムラサキ(撮影/山本晃)        川崎でも増えているアカボシゴマダラ


在来のゴマダラチョウ          川崎で復活したコムラサキ(撮影/山本晃)

この文章は、かわきた第212号 2008年5月発行に掲載されたものです。
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