かわきた第243号(2013年3月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
昔は普通にいたホトケドジョウ

かわさき自然調査団 岩田臣生



 都会で生活していると街路樹や建物周りの植栽なども自然と認識していると思います。しかし、「川崎の自然をみつめて」がとりあげている自然は、人為的に造ることができない、昔から命をつないできた歴史を伝える自然です。今回は川崎の自然を指標する淡水魚を紹介したいと思います。
昔はどこの谷戸の水辺にも普通に生息していましたが、今ではごく一部の地域にしか生息していない魚、ホトケドジョウです。
国のレッドリストでも、神奈川県レッドデータブック2006でも、絶滅危惧TB類(EN:ごく近い将来に絶滅する危険性が高い種)に指定されています。
 ホトケドジョウはコイ目ドジョウ科に属する日本固有の淡水魚で、秋田県・岩手県以南、兵庫県までの本州に分布(勝呂2005)しています。形態的にはヒゲが4対8本であることが特徴です。
 生息環境は湧水の小さな流れで、草が繁っていて浅い水域です。そこは@水温5〜25℃、A溶存酸素5mg/l以上、BPH 6.6〜7.8、C電気伝導率30mS/m以下になっています。 1960年代までは県内各地の谷戸に最も普通に見られた魚で、オババ等の蔑称も残っていますが、都市化とともに生息地が消失し、1970年代にかけて急速に衰退しました。 2004年に実施した「皆でできる自然調査」のホトケドジョウ調査では、湧水マップ(川崎市)を使って高津区、宮前区、多摩区、麻生区の湧水地を調べ、ホトケドジョウの生息している水域を見つけていきました。その結果では、生田緑地、黒川、古沢でホトケドジョウを確認しました。この他、岡上(2005、堂前)での調査報告もありますが、生息地は非常に限定的、かつ脆弱になっています。
 生活史をみると寿命は2年程度です。1年で成熟し、春に1尾の雌を数尾の雄が追いかけながら水草等に産卵します。卵は直径約1mmで、2〜3日でふ化します。ふ化仔魚は約3mmで、ふ化翌日には水中を泳ぎ出します。ふ化後15日で全長2p程度になり、翌春には4〜5cmにまで成長します。
 生田緑地の谷戸では、春になると、いつ産卵したものか、田んぼの中に小さな稚魚が広がっていて、半月も経つと体長2cm程度の小さなホトケドジョウが一面に広がります。しかし、夏は田んぼの水温が30℃を超えますので、低水温の場所を求めて移動します。もう、この頃には水流を遡る体力もあります。
 ホトケドジョウは雑食性でアカムシや水生昆虫等の小動物を主食としていますが、生態系の中では、同時に捕食される立場でもあります。谷戸の田んぼのような湧水による停滞水域があれば繁殖期には爆発的に個体数を増やすことができます。そして、他の生物の生息を支えながらも、次の世代に命をつなぐことができると思います。

この文章は、かわきた第243号 2013年3月発行に掲載されたものです。
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