かわきた第236号(2012年1月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
ヤツシロランが見つかりました

かわさき自然調査団 岩田臣生

 2011年11月に生田緑地のササ刈りをしていた時に奇妙な植物を見つけました。何だろう。 写真のような状態のもので、揺すると中から白い種子らしいものが飛び出しました。 実や種子の出ている図鑑が手元に無く、インターネットで調べるにしても名前の見当ぐらいつかないと困難です。そのうち分かるかも知れないと思って放っておいたところ、2件のメールがヤツシロランという名前を知らせてきました。1件は、千葉県の市民活動団体からで、植生管理をしている時にクロヤツシロランの実を見つけたという記事が載っている会報が送られてきました。もう1件は、団員のSさんからで、調べたらヤツシロランらしいというものでした。
調べてみると、クロヤツシロランとアキザキヤツシロランという同じオニノヤガラ属の腐生ランのどちらかだろうということが分かりました。クロヤツシロランとアキザキヤツシロランの果実の違いは、前者が暗紫褐色、後者が黄土色と神奈川県植物誌2001にありましたので、生田緑地で見つけたものはクロヤツシロランだろうと思われましたが、判別は来年、花を見つけてからにすることにしました。 どちらにしても生田緑地では未記録種です。しかも、同植物誌によれば、川崎市内でのアキザキヤツシロランの記録は無く、クロヤツシロランは麻生区で1979〜1987の記録があるのみでした。これらは絶滅危惧種ではありませんが、川崎での記録が無いらしいことから一種の興奮を覚えました。
 その後、ヤツシロランを生田緑地で見つけたことを植物班に伝えたところ、2011年に東生田緑地(多摩区)でも見つけていたことを聞かされたのですが、その数日後には麻生区黒川でも見つけたとの知らせが入ってきました。 また、このことをメールマガジン版団報に載せたところ、宮前区の水沢の森でも観察され、写真を撮影しているという情報を得ました。
 生田緑地内では、別の場所で植生管理をしている時にも10本ほどの茎を伸ばして実をつけている姿が観察されました。植生管理のタイミングが花の時期に一致していないため、いずれも立ち上がった実であったのは残念ですが、植生管理という活動をしていたことで出会えた植物です。
 この2種の植物はいずれもラン科オニノヤガラ属の腐生植物です。この属の植物は東アジア、オーストラリア、アフリカに約20種、日本には7種が分布し、神奈川県には3種、即ち、オニノヤガラ、クロヤツシロラン、アキザキヤツシロランが自生すると同植物誌にありました。オニノヤガラは40〜100cmで実になって茎が伸びるということはありません。アキザキヤツシロランの花は緑褐色、クロヤツシロランの花は暗紫褐色で目立たないのですが、花後、茎を伸ばし、30〜50cmにもなることから実になってから気がつくということが多いようです。また杉林や竹林の腐植土の多いところに生育するとありました。市内の他の場所での観察も竹林でした。ところが、生田緑地での観察は杉林でも竹林でもありませんでした。
 2011年の晩秋はヤツシロランという腐生ランが川崎にも生育していることが各地からの情報で見えてきました。

ヤツシロランの実 ヤツシロランの実

この文章は、かわきた第236号 2012年1月発行に掲載されたものです。
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