プールのヤゴの救出作戦



かわきた第221号(2009年7月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
プールのヤゴの救出作戦

かわさき自然調査団 岩田臣生

 学校や公園の屋外プールは夏以外の期間は使われることはない。そんなプールに、トンボたちは産卵し、幼虫になり、成虫になって飛び出す。羽化が間に合わずにプールに残っていたヤゴを救い出して羽化させてやろうというのがプールのヤゴの救出作戦だ。里山の自然学校では稲田公園の児童プールのヤゴの救出作戦を開校以来毎年実施している。
救出したヤゴは、子どもたちが、ヤンマ型、シオカラトンボ型、アカトンボ型、イトトンボ型に分類して、救出した個体数を記録してきた。初めてのヤゴの救出作戦では、ヤンマ型が70匹、シオカラトンボ型が35匹、アカトンボ型が5,054匹、イトトンボ型が59匹、合計5,218匹だった。5年目となる今年は、ヤンマ型が19匹、シオカラトンボ型は115匹、アカトンボ型は1,079匹、イトトンボ型は0、合計1,213匹であった。イトトンボ型は2007年以降採集されていない。アカトンボの減少が著しいこと、イトトンボが採集できなくなったことなどが目立つ。
 今までは余裕がなくてできなかったが、型で分けるだけでは不十分で、種を調べる必要があると感じていたので、今年は採集したヤゴのうちの幾つかについては羽化の様子を観察し、種の同定を試みた。その結果、アカトンボ型は3種、コノシメトンボ、アキアカネ、ネキトンボを確認した。また、シオカラトンボ型はシオカラトンボ、ヤンマ型はギンヤンマであった。2006、2007年のイトトンボ型からはアオモンイトトンボを確認している。
アキアカネは夏の間、高冷地で過ごすことが知られている。また、年によって観察される個体数の変動が著しいといわれている。昨年11月の生田緑地では多数が群れていた。 コノシメトンボは、学校などのプールで見られるヤゴの代表的存在である。
ネキトンボは、かつては中部以西でしか記録されていなかったが、20〜30年前から分布を広げている種である。丘陵地や山地の周囲に樹木がある水深のある池沼を好むという。
これらのアカトンボはプールなどの環境でも棲息できる種のみである。
 子どもたちの関心は専らギンヤンマにある。昔から日本の代表的トンボであり、救出したいヤゴである。産卵形態が打水産卵ではなく、水草などの植物体内に1粒ずつ産卵するものであることから、産みつけることができるものがあるかどうかが棲息数に影響していると考えられる。アオモンイトトンボも植物体内への産卵であることから、より弱いイトトンボが先に棲息できなくなったと考えることもできる。今秋は、この検証を試みたいと思う。
稲田公園を管理している北部公園事務所から2004年に相談されて始めたヤゴの救出作戦であるが、継続することで、川崎の自然調査の重要な一つになると感じ始めている。


ギンヤンマの幼虫(ヤゴ)

プールから救出し、羽化観察をしたギンヤンマ

小雨の中で行われた里山の自然学校2009の「プールのヤゴの救出作戦」

この文章は、かわきた第221号 2009年7月発行に掲載されたものです。
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