腐生ランが分布を拡大?



かわきた第216号(2008年9月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
腐生ランが分布を拡大?

かわさき自然調査団 岩田臣生

今年7月、川崎市域の常緑樹林内でタシロランが見つかりました。
タシロランはラン科トラキチラン属の腐生植物で体内に葉緑素を持たず、菌類と共生して生育する植物です。群馬県以西の常緑広葉樹林内に生育します。神奈川県では
1958年に横須賀市の鷹取山で初めて発見され、基準産地となっています。環境省の準絶滅危惧種に指定されていますが、「植物誌1988」では三浦半島のみの記録であったものが「植物誌2001」では沿海部を中心に産地を拡大しています。
ラン科シュンラン属の腐生植物であるマヤランは、栃木県以西のシイ、カシなどの樹林内に生育し、環境省の絶滅危惧TB類に指定されています。
マヤランやタシロランは神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006では共に健在種とされました。
在来の植物の多くが生育環境を失い減少している傾向にあるのに対して、特定の地域では逆に増加し始めた植物もあるのです。マヤランやタシロランに見られる現象は、雑木林が放置されて常緑樹林化が進み、年間を通して安定して暗く、湿った環境が増大していることと深い関係にあります。勿論、地球温暖化の影響も少なからずあると思われます。ラン科植物やシダ植物では生育環境が増加しているものもあり、今までなかなか目に触れなかったものが普通に見られるようになるかも知れません。



この文章は、かわきた第216号 2008年9月発行に掲載されたものです。
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