かわきた第211号 2007年11月発行、P8
初秋の谷戸
(谷戸を彩るツリフネソウとミゾソバ)

かわさき自然調査団 岩田臣生

ツリフネソウはツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草、ミゾソバはタデ科タデ属の一年草で、共に東アジアに広く分布し、神奈川県域でも普通に見られる。ツリフネソウは谷沿いなどの半日陰の湿った場所、ミゾソバは小川や沼沢地、湖岸などに生育するが、生田緑地の谷戸では、その分布を広げて9月の谷戸の代表的な花になっている。
水田ビオトープ班が活動を始めた2004年には、生田緑地の谷戸では、ツリフネソウはハンノキ林に接する湿地に、ミゾソバは下の田圃周辺に見られたのみであった。
2005年にはミゾソバが勢力を拡大した。ところが、2006年にはツリフネソウがミゾソバの領域を占領し、下の田圃付近の木道沿いは一面ツリフネソウで埋めつくされた。
ツリフネソウの種子はホウセンカの様に周辺に弾け飛ぶもので、その種子の量も多かったことから今年はどうなるのかと思っていたところ、9月初旬にはツルマメなどに覆い隠されていた。
それが下旬になって、そのマントを破る様にしてミゾソバが顔を出し、花を咲かせ、勢力を盛り返した。
谷戸の自然保全活動の方向が谷戸全体を湿潤な環境にする方向であるため、こうした植物にとっては住み心地がいいのだろう。これだけの規模でツリフネソウやミゾソバが咲いている景観はそうあるものではないと思っている。
とは言っても、特定の種だけを優遇しているわけでないことは見て戴ければ分かる。10月はじめ、このほかにアキノウナギツカミ、ミズヒキ、ハナタデ、イヌタデなどのタデ科の植物、ユウガギク、カントウヨメナなどキク科の植物、コブナグサ、メヒシバ、オギなどイネ科の植物、ゲンノショウコなどが咲いている。田圃や湿地の植物は実に豊富であり、後から後から様々な花が咲く。その中でも目立つ花がツリフネソウとミゾソバなのであり、川崎の9月の花の名所ができつつあると思っている。

(注)ミゾソバとオオミゾソバを総称してミゾソバと記している。生田緑地ではオオミゾソバが普通である。



この文章は、かわきた第211号 2007年11月発行、8頁に掲載されたものです。
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